運命の邂逅:10-FEETと「ゴールデンカムイ」
2025年11月30日、映画『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』(2026年3月13日公開)の主題歌を10-FEETが担当することが発表された。
その楽曲は「壊れて消えるまで」という書き下ろしの新曲である。
この発表は、日本の音楽シーンとエンターテインメント業界に大きな波紋を広げた。
なぜなら、京都発のスリーピースロックバンド・10-FEETが映画の主題歌を手がけるのは、2022年の大ヒット映画『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディング主題歌「第ゼロ感」以来、約3年ぶりのこと。
さらに、実写映画の主題歌という点では、2012年公開の『莫逆家族 バクギャクファミーリア』以来、実に13年ぶりという重要な任務だったからだ。
10-FEETが10-FEETであり続ける理由
10-FEETは1997年に京都で結成された、シンプルながら圧倒的な存在感を放つ3ピースバンドである。
ボーカル・ギターのTAKUMA、ベース・ボーカルのNAOKI、ドラムス・コーラスのKOUICHIの3人で構成されている。
彼らが音楽シーンで一貫して貫いてきたのは、妥協のない音楽性である。
心に刺さるメッセージ性の強い歌詞、疾走感と繊細さを併せ持つサウンド、そして圧倒的なライブパフォーマンス。
このバランスが、多くのファンに支持される理由となっている。
特に注目すべきは、彼らが所属する東京ではなく、地元京都を拠点に活動を続けているという点である。
「京都大作戦」という野外フェスティバルを主催し、毎年多くのロックファンを集める彼らは、メディア露出は少なくとも、確実なファン基盤を持つバンドとして知られている。
原作の大ファンだった運命
今回のタイアップが成立した背景には、10-FEETのボーカルTAKUMAが原作『ゴールデンカムイ』の熱狂的なファンであったという、偶然とは言い難い必然が存在していた。
TAKUMAは、オファーを受けた時点でのコメントで、その喜びを素直に表現した。
うわああああああ!原作の大ファンやった私になんちゅうオファーをー!ヤングジャンプでも追いかけていた原作の「ゴールデンカムイ」。
TAKUMA(10-FEET)
すっかりハマってしまった私は音楽制作の日々の中で煮詰まると逃亡して定食屋の宮本むなしで「ゴールデンカムイ」のアニメを観るのが秘密のルーティンでした。
TAKUMA(10-FEET)
それが今度はなんと制作担当に!笑 何が起こったんだ!ある意味逃げられない。
TAKUMA(10-FEET)
いや、こんな嬉しい事があるだろうか。ほんまありがとうございます。チタタプチタタプ。。。
TAKUMA(10-FEET)
このコメントから浮かび上がるのは、単なる「仕事」としての主題歌ではなく、自分が心から愛した作品に携わることになった、その純粋な喜びである。
「定食屋で音楽制作の煮詰まりを晴らすために『ゴールデンカムイ』のアニメを観る」というルーティンは、多くのクリエイターが創作の息詰まった瞬間に触れるエンターテインメントの価値を示唆している。
そしてその作品の主題歌を自分が担当することになった——これ以上の幸運と責任が重なることはない。
「壊れて消えるまで」が作られた理由
『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』は、野田サトル原作の人気漫画をベースにした実写映画シリーズの第2弾である。
累計発行部数3000万部を突破するメガヒット作を実写化するにあたって、映画制作陣が求めた主題歌の要件は明確だった。
疾走感を持ちながらも、喪失と痛みを抱えた者の強さを歌うサウンド
これが、10-FEETの新曲「壊れて消えるまで」に込められたコンセプトである。
物語の主人公・杉元佐一は、日露戦争帰りの元兵士であり、数多くの喪失を経験している人物だ。
その彼が、アイヌの少女アシリパとともに、莫大なアイヌの埋蔵金をめぐる冒険に臨む。
そこには、単純なアクション映画では片付けられない、深い精神性と人間ドラマが存在する。
10-FEETが作った「壊れて消えるまで」という楽曲は、まさにこの杉元の心情を音に変換した作品となっている。
疾走感に満ちたメロディラインは、彼らが前へ進む必死さを表し、その底流に流れる悲哀は、彼らが背負う過去の重さを物語る。
制作現場からのメッセージ
制作スタジオ・CREDEUSの松橋真三プロデューサーは、このタイアップについて極めて感情的な評価を下している。
いただいた時、初めて主人公・杉元佐一の心が垣間見れた気がして、涙腺が崩壊しました。
松橋真三プロデューサー(CREDEUS)
杉元は言葉少なめだけど、こんなにも熱い思いを胸に秘めているのかもしれないと。
松橋真三プロデューサー(CREDEUS)
私は劇中で杉元を見る度に、頭でこの曲が流れ、胸が熱くなるようになりました。
松橋真三プロデューサー(CREDEUS)
このコメントは、10-FEETの新曲が、単なる「映画の背景音」ではなく、作品全体の精神的支柱として機能していることを示唆している。
プロデューサーが「涙腺が崩壊した」という表現は、その楽曲の力の大きさを如実に物語っている。
『ゴールデンカムイ』というシリーズは、2024年の映画第1弾と連続ドラマ版を経て、今作で「シリーズを積み重ねた、ある意味ここまでの集大成のような作品」(松橋プロデューサーの言葉)として完成する予定だ。
その最高の局面を彩る楽曲として、10-FEETは選ばれたのである。
なぜ10-FEETなのか——音楽的な親和性
では、なぜ映画制作陣は10-FEETを選んだのか。
その理由は、単なる「知名度」ではなく、音楽的な親和性にあったと考えられる。
10-FEETのこれまでのキャリアを見ると、彼らは一貫して「熱量」と「メッセージ性」を持つ楽曲を制作してきた。
2022年の『THE FIRST SLAM DUNK』のエンディング主題歌「第ゼロ感」は、スポーツ漫画の映画化作品にふさわしい、疾走感とエモーショナルな強さを兼ね備えた楽曲として高く評価された。
その再生数はストリーミング総再生数4億回を超え、第74回NHK紅白歌合戦でも歌唱されている。
同じ「漫画の映画化」という文脈で、「スポーツ漫画×10-FEET」に続き「ゴールデンカムイ×10-FEET」というタッグが実現したことは、制作陣が10-FEETの「熱量の塊」的なエネルギーをよく理解していたことを示している。
ファンの期待とトレンド化
11月30日の発表は、X(旧Twitter)上で大きなトレンドを生み出した。
「網走監獄襲撃編」というワードは、Yahoo!リアルタイム検索でもトレンド入りし、多くのファンが喜びの声を上げた。
ファンのリアクションをまとめると、以下のような傾向が見られた:
- 「実写金カム続編の主題歌が10-FEETは予想外だけど最高」「第ゼロ感からの流れでテンション上がる」といった驚きと賞賛の声
- 「IMAXで網走監獄襲撃編を浴びたい」「あのシーンもこのシーンも実写で観られるの胸熱」と映像面への期待を語る声
- 「映画&ドラマ全部観たけど、再現度が高いから網走監獄襲撃編も信頼して待てる」と実写化の品質を評価するコメント
これらの反応は、10-FEETというバンドの起用が、単なる音楽的なマッチングだけではなく、ファンダムの期待値をも高めることに成功したことを示している。
映画の壮大さと楽曲の使われ方
予告映像では、10-FEETの「壊れて消えるまで」の楽曲が、映画のビジュアルと一体化して表現されている。
映像は、軍艦まで投入する大規模なバトルシーン、700人の凶悪犯が集う網走監獄での三つ巴の戦い、キャラクター同士の対立、そして金塊をめぐる激しい戦闘——これらが、10-FEETの疾走感あふれるサウンドとともに展開される。
明治末期の北海道という舞台設定のもと、日露戦争帰りの元兵士、アイヌの少女、新撰組副長、そして第七師団の中尉が集結する。
その複雑で壮大な物語世界に、10-FEETの熱い楽曲がどのようにマッチするのか——それは、映画公開まで明かされない秘密である。
「チタタプ」に込められた想い
TAKUMAのコメント最後に記された「チタタプチタタプ。。。」というフレーズは、『ゴールデンカムイ』の物語内に登場するアイヌ語である。
これはアイヌ民族が食べる伝統的な料理「チタタプ」(刻んだ生魚を塩漬けにしたもの)を指すとともに、作品を通じて描かれるアイヌ文化への敬意を示すものでもある。
TAKUMAがこの言葉をコメントの最後に配置したことは、単なるファン心情の表現ではなく、自分たちが携わるこの作品が持つ文化的な意義を理解していることの証でもある。
京都発ロックバンドの新たな高み
10-FEETの歴史を紐解くと、彼らは常に「最高のパフォーマンスを求める」というスタンスを貫いてきた。
1997年の結成から約30年近く、ロックミュージック一筋で活動してきたこのバンドが、『THE FIRST SLAM DUNK』に続き、『ゴールデンカムイ』という大作の主題歌を担当することは、彼らの音楽的価値が業界内で確実に認識されていることを示している。
2026年3月13日の映画公開日を前に、10-FEETは「壊れて消えるまで」というミュージックビデオやライブでのパフォーマンスを通じ、この楽曲を世界へ発表していくことになる。
また、同時期には「東日本大作戦」というツアーも予定されており、全国各地でこの新曲を含むライブパフォーマンスが行われることが決定している。


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