北海道釧路市で現在開催中の「さかなクンのギョ苦楽展~さかなクンの世界とギョギョギョ水族館~」が大きな話題を呼んでいる。
なぜさかなクンの展覧会が北海道、しかも釧路で開催されることになったのか。
その背景には日本一の水産都市としての釧路の特別な地位と、海洋環境への深い関心を持つさかなクンとの絶妙な符合がある。
釧路港が32年ぶりに水揚げ日本一を達成
さかなクンの展覧会が釧路で開催される最大の理由は、釧路港が2023年と2024年に2年連続で水揚げ量日本一を記録したことだ。
2023年の水揚げ量は18万9,416トンで、32年ぶりに全国1位に返り咲いた。
2024年も17万3,304トンと前年比9%減となったものの、2年連続で首位を守り抜いた。
釧路港は過去に22回もの水揚げ量全国1位を記録している水産都市で、1991年以来の復活劇となった。
特にイワシの巻き網漁が好調で、2024年の釧路港水揚げ量の8割以上を占めている。
この豊漁により、釧路は「水産のまち」としての地位を再び確固たるものにした。
水産都市釧路とお魚博士さかなクンの理想的な組み合わせ
北海道立釧路芸術館の齊藤千鶴子学芸主幹は「水揚げ日本一のまちである釧路にさかなクンの作品がやって来るので、多くの人にご覧いただきたい」と展覧会への期待を語っている。
2023年と2024年の水揚げ日本一という実績が、お魚博士として知られるさかなクンとの展覧会開催を後押ししたのは間違いない。
この展覧会は2023年、2024年と水揚げ日本一の魚のマチ、釧路らしい展覧会として企画された。
海の環境問題について発信し続けるさかなクンと、日本最大の水産基地である釧路との組み合わせは、まさに理想的なマッチングと言える。
展覧会の特色と展示内容
道内で初めて開催される「さかなクンのギョ苦楽展」では、さかなクンが手がけた絵画や造形物など約57点が展示されている。
会場には、さかなクンのトレードマークとなっているハコフグを描いた「ハコフグのプクプクちゃん(♂)ギョんにちは ギョギョギョ」や、エビスダイやマサバ、カエルアンコウなど10種類の魚を色鮮やかに表現した「一魚一会」といった独特のタッチの絵画約40点が展示されている。
造形作品も見どころの一つで、笠間焼で制作されたソウシカエルアンコウや伊万里焼の「リアルタコ壺」、紙粘土のマトウダイなども披露されている。
さらに、多くの魚類が描かれた東京海洋大学の白衣やトレードマークの「ハコフグちゃん帽子」なども展示され、さかなクンの多才ぶりを物語っている。
さかなクンと北海道の深いつながり
興味深いことに、さかなクンと北海道には意外な縁がある。
さかなクンが若い頃、住み込みのアルバイトをしていた店が北海道十勝地方の本別町にある寿司屋「福寿し」だった。
1997年の真冬の1カ月間、さかなクンは店舗3階で暮らしながら、下ごしらえや皿洗いなど何でも手伝っていたという。
店主の田西信雄さんは「出した魚は骨が残らないほどきれいに食べていた。裏表がなくて一途で一生懸命」と当時の様子を懐かしんでいる。
また、さかなクンは北海道の水産業についても深い関心を示している。
2024年12月に札幌で開催されたフォーラムでは、道内近海の海水温上昇により南方系の魚のブリやシイラの回遊が増えていることを指摘し、「サケやサンマが減り、北海道の食文化にも変化が起きそう」と述べている。
地域連携と教育効果への期待
釧路芸術館では、展覧会開催に合わせて様々な教育プログラムも実施している。
学芸員の案内で展示室を巡る「こどもギャラリーツアー」を定期的に開催し、家族での参加も可能としている。
また、釧路・根室管内の小中学生は会期中いつでも観覧無料とするなど、地域の子どもたちの学習機会を重視している。
教員向けの鑑賞研修も開催され、地域の教育関係者にも展覧会の教育的価値を理解してもらう取り組みが行われている。
これらの活動により、単なる展覧会を超えて、地域の海洋教育や環境教育の拠点としての役割を果たそうとしている。
釧路市の水産業アピール戦略
釧路市は2年連続の水揚げ日本一を受けて、「釧路港2年連続水揚げ日本一キャンペーン」を実施している。
公共施設や小売店、飲食店などに「水揚げ日本一釧路港」ののぼりやロゴマークを設置し、デジタルサイネージによる周知なども行っている。
さかなクンの展覧会は、このような釧路の水産業アピール戦略の一環としても位置づけられている。
海の環境問題について発信を続けるさかなクンの展覧会を通じて、釧路の水産業への関心と認知度を高め、消費拡大につなげる狙いがある。
SNSでの反響と市民の関心
展覧会は地域メディアでも大きく取り上げられ、来館者からは「さかなクンが大好きだし、色使いがきれいだから」「テレビでも楽しいけど絵もうまいし、来てよかった」などの好評の声が聞かれている。
釧路市民にとって、32年ぶりの水揚げ日本一は特別な意味を持つ。
子どもの頃から「みなと釧路は日本一」という誇りを持って育った市民にとって、お魚博士さかなクンの展覧会は、その誇りを再確認する貴重な機会となっている。
海洋環境への関心の高まり
さかなクンは常に海洋環境の保護と持続可能な漁業について発信している。
近年の気候変動による海水温上昇や魚種の変化は、北海道の水産業にも大きな影響を与えている。
さかなクンの展覧会は、こうした海洋環境問題への関心を高める機会としても期待されている。
展覧会期間中の7月から10月は、釧路では「くしろ霧フェス」「港まつり」「大漁どんぱく」と3つの祭りが開催される時期でもある。
これまで芸術館になじみがなかった地域住民にも足を運んでもらう絶好の機会となっている。
まとめ:水産都市釧路での展覧会開催の意義
さかなクンの展覧会が北海道釧路で開催される理由は、単なる偶然ではない。
32年ぶりに水揚げ日本一を達成した釧路の水産業への誇りと、海洋環境保護を訴え続けるさかなクンの活動が重なり合った結果である。
この展覧会は、日本最大の水産基地である釧路と、お魚博士として愛され続けるさかなクンとの理想的なコラボレーションとして、多くの人々に海の豊かさと大切さを伝える貴重な機会となっている。
展覧会は10月13日まで開催されており、水産都市釧路の新たな魅力発信の場として、また次世代への海洋教育の拠点として、その役割を果たし続けている。
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