はじめに:オートロックは万能ではない
近年、防犯意識の高まりとともに、マンションやアパート、一般住宅でもオートロックの需要が急増している。
特に後付けできるスマートロックの普及により、手軽にセキュリティを向上させることができるようになった。
しかし、「オートロックがあれば安心」という過信は危険である。
実際に、2025年8月には神戸市のオートロック付きマンションで、女性が男に刺され死亡するという痛ましい事件が発生している。
この事件では、犯人が女性の後をつけてオートロックをすり抜けて侵入しており、オートロックの限界を浮き彫りにした。
最新の侵入手口と事例
1. 共連れ(テールゲーティング)による侵入
最も一般的な侵入手口が「共連れ」である。
これは住民がオートロックを解除した直後に、不審者が一緒に入る手口だ。
2025年8月の神戸市の事件では、まさにこの手口が使われた。
防犯カメラの映像によると、帰宅した女性がオートロックを解除して中に入る際、犯人が女性の後をつけるように急いでマンション内に侵入する様子が捉えられていた。
この手口の特徴として、犯人は住民であるかのように振る舞い、自然に一緒に入ってくるため、住民も警戒しにくいという点がある。
2. スマートロックの暗証番号突破
2024年には大阪府で、スマートロックのパネルに残った指跡から暗証番号を割り出し、一人暮らしの女性宅に侵入する事件が発生した。
逮捕された27歳の男は「女性の生活に興味があり、遊び感覚で暗証番号を当てていた」と供述している。
この手口では、使用頻度の高いボタンに残る指跡を分析し、よく触れられた数字の組み合わせから暗証番号を推測する。
特に暗証番号式のスマートロックでは、毎回同じ番号を入力するため、特定のボタンだけが汚れやすく、犯人に手がかりを与えてしまう危険性がある。
3. 業者を装った侵入
宅配業者や電気・ガス・水道の点検業者を装い、住民にインターホンから解錠させて侵入する手口も報告されている。
この手口は住民が在宅中でも狙われるため、特に注意が必要である。
犯人は事前に下見を行い、住民の生活パターンを把握してから犯行に及ぶケースが多い。
4. ピッキングやその他の物理的侵入
従来のピッキング技術も進歩しており、オートロック付きの住宅であっても、手慣れた空き巣犯であれば数十秒から数分で侵入される恐れがある。
また、エントランス以外の侵入経路として、ベランダや窓からの侵入、非常階段や塀を越えての侵入も報告されている。
5. スマートロックのハッキング
技術の進歩とともに、スマートロックへのサイバー攻撃も現実的な脅威となっている。
2018年にはGoogle社内でスマートロックのハッキング事件が発生し、ハードコードされた暗号化キーの脆弱性が発見された。
現在市販されているスマートロックでも、Bluetooth接続の脆弱性やアプリの不正利用による被害が懸念されている。
後付けオートロックのリスクと問題点
電池切れによる締め出し
スマートロックの多くは電池で動作するため、電池切れになると機能しなくなる。
外出中に電池が切れると、物理的な鍵を持っていない場合は締め出されてしまう危険性がある。
通信障害によるトラブル
Wi-FiやBluetoothの通信不良により、スマートロックが正常に動作しないケースも報告されている。
特に悪天候時や電波状況の悪い環境では、解錠できなくなるリスクがある。
取り付け不具合
後付けのスマートロックは、既存のドアやサムターンの構造に依存するため、取り付け不具合や強度不足による破損の可能性がある。
効果的な防犯対策
複数の認証方式の併用
最も効果的な対策は、複数の認証方式を組み合わせることである。
暗証番号だけでなく、指紋認証や顔認証、ICカード認証を併用することで、セキュリティを大幅に向上させることができる。
定期的な暗証番号の変更
暗証番号式のスマートロックを使用する場合は、定期的に番号を変更し、推測されにくい複雑な番号を設定することが重要である。
また、解錠後に偽の操作を行って指跡を増やし、解読を困難にする対策も有効だ。
物理的な補助鍵の併用
スマートロックの故障や電池切れに備え、従来の物理的な鍵も併用することが推奨される。
また、補助錠や防犯フィルムなどの追加的な防犯対策も検討すべきである。
防犯カメラと照明の設置
玄関周りに防犯カメラを設置し、不審者の動きを監視することで、パネルの操作を観察されるリスクを軽減できる。
また、明るい照明を設置することで、暗闇での不正操作を防ぐことができる。
住民同士の連携
マンションやアパートでは、住民同士の連携も重要である。
知らない人と一緒にエントランスに入らない、不審者を見かけたら管理会社に連絡するなど、コミュニティ全体での防犯意識の向上が必要だ。
2025年おすすめのセキュリティ強化策
最新のスマートロック選び
2025年現在、セキュリティ性能の高いスマートロックとして、以下の製品が注目されている。
- SwitchBot スマートロック Ultra:顔認証・指紋認証・ICカード対応
- SADIOT LOCK2:日本製で高精度センサー搭載
- Qrio Lock:ハンズフリー解錠機能
これらの製品は暗号化通信に対応し、複数の認証方式を組み合わせることができる。
ホームセキュリティサービスの活用
オートロックだけでなく、総合的なホームセキュリティサービスの導入も検討すべきである。
SECOMやALSOKなどの警備会社のサービスを利用することで、24時間体制での監視と緊急時の対応が可能になる。
まとめ:多層防御の重要性
後付けオートロックは確かに防犯性を向上させる有効な手段だが、完璧なセキュリティシステムではない。
神戸市の事件や大阪府のスマートロック侵入事件が示すように、犯罪者は常に新しい手口を考案している。
重要なのは、オートロックに頼りすぎず、複数の防犯対策を組み合わせた「多層防御」の考え方である。
物理的な鍵、電子的な認証、監視システム、そして住民や近隣住民との連携など、様々な要素を組み合わせることで、真の安全を確保することができる。
技術の進歩とともに防犯システムも進化しているが、それと同時に犯罪手口も巧妙化している。
定期的に防犯対策を見直し、最新の情報に基づいて対策をアップデートしていくことが、安全な生活を送るために不可欠である。
最後に、どんなに高度なセキュリティシステムを導入しても、基本的な防犯意識を持つことが最も重要であることを忘れてはならない。
施錠の確認、不審者への警戒、緊急時の連絡先の確保など、日常的な防犯習慣こそが、私たちの安全を守る最初の砦なのである。
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