2025年12月24日、サッカーファンを驚かせるビッグニュースが飛び込んできた。
清水エスパルスを契約満了で退団した元日本代表MF乾貴士(37歳)が、ヴィッセル神戸への移籍が決定的になったのだ。
複数の関係者によると、すでに正式オファーを提示し、交渉は順調に進んでいるという。
テクニックも戦術眼も衰えを知らない37歳のベテラン—これが日本のサッカー界に何をもたらすのか。
そして、なぜこのタイミングで神戸は乾を必要としたのか。
詳しく見ていこう。
清水での3シーズン 元日本代表の「輝き」は褪せず
2022年7月、乾は人生最大のターニングポイントを迎える。
C大阪での規律違反による退団から、その人生が暗転しかけていた。
「引退も考えていた」と後に語ることになる中、清水エスパルスが彼に救いの手を差し伸べた。
清水での3年間は、乾にとって再生の舞台となった。
2023年のJ2時代、乾はリーグ戦32試合に出場し、10得点10アシストという驚異的な成績を残す。
その年、清水はJ2で優勝し、3季ぶりのJ1昇格を果たす。
乾はこの昇格に大きく貢献し、J2ベストイレブンに選出されるなど、その価値が再認識された。
昨季(2024年)のJ2でも、乾は30試合に出場し5得点7アシストをマーク。
この時点で「J2最多スルーパス」という評価も得ており、チャンスメイカーとしての存在感は疑いの余地がなかった。
そして2025年シーズン。
清水はJ1昇格初シーズンに挑むこととなるが、乾は再び躍動する。
リーグ戦31試合に全試合出場し、2得点1アシストをマーク。
失点は1枚(イエローカード)に留まり、37歳にして驚くべき安定感と技術を見せ続けた。
「37歳だが、技術、能力に衰えはなく、変わらぬ独創的なプレーでファンを魅了し続けている」—メディアの評価も一貫していた。
12月6日の涙 清水での別れ
シーズン最終節の12月6日、乾は清水のキャプテンマークを胸に、岡山戦でフル出場した。
試合は1-2で敗れ、清水は14位でシーズンを終える。
だが、その試合の直後、ピッチ上で行われたセレモニーで乾は人目をはばからず号泣した。
「こんな僕を拾ってくれて、応援し続けてくれてありがとうございました」—声を震わせながら、乾は清水サポーターに感謝を伝えた。
かつて「問題児」と呼ばれた自分を受け入れてくれたクラブへの想いが、その涙から溢れ出ていた。
だが乾は、同時にこう宣言した。
「こんな形で引退するのは嫌なので、もうちょっと頑張ります」
再び現役続行を宣言した乾の心には、次のステージへの想いがあったに違いない。
なぜ今、神戸なのか スキッベ新監督と「秋葉要因」
ヴィッセル神戸は2024年、J1リーグ優勝を達成した。
FW大迫勇也(35歳)とMF武藤嘉紀(33歳)を中心に、日本を代表する選手が集結し、J1の頂点を極めた。
だが新シーズンは、大きな変化が訪れる。
レオ・ウィンダーやドイツの名将ミヒャエル・スキッベ(60歳)新監督の就任だ。
スキッベ監督は、チームを真の「常勝軍団」へと進化させるため、戦力強化に取り組んでいる。
特に注目されるのは、攻撃面での創造性と多様性を高める必要性だ。
2024年シーズンを振り返ると、神戸は確かに優勝したが、「複数の得点を挙げた試合が18試合に留まった」という課題が浮かび上がる。
ここで重要な役割を担うのが、スカウトの梶野智氏だ。
C大阪での経験からいち早く乾の才能を見抜いた梶野氏は、乾の移籍を推し進めたとも伝えられている。
そして、もう一つの重要なファクターが、秋葉忠宏氏(50歳)の神戸コーチ就任だ。
清水での監督時代に乾を指導していた秋葉氏は、来季神戸のコーチとして指揮官スキッベをサポートすることが決定している。
12月のスポーツ番組『KICK OFF! SHIZUOKA』で放映された映像では、乾が秋葉に対して「お互い就職活動頑張りましょう」とメッセージを送るなど、師弟の絆が画面越しに伝わってきた。
この信頼関係こそが、乾の神戸移籍を決定づけた大きな要因となった可能性が高い。
国際経験とW杯の実績 「最高級のピース」となり得る根拠
乾が神戸にとって「最高級のピース」と評される理由は、年齢だけでは測れない豊かなキャリアにある。
2011年、乾はドイツの名門ボーフムへ移籍。
ブンデスリーガ2部で30試合出場し7得点を挙げ、その後ブンデスリーガのアイントラハト・フランクフルトへステップアップした。
フランクフルトでは加入1年目から3試合連続ゴールを記録するなど、欧州での適応は迅速だった。
2015年には、スペイン・リーガ・エスパニョーラのSDエイバルへ移籍。
ここで乾は実に3シーズンに渡って、欧州の一流リーグで中心選手としてプレーした。
その実績は、2017年にFCバルセロナから2ゴールを奪ったという出来事が物語っている。
そして何より重要なのが、2018年のロシアW杯での実績だ。
乾は日本代表のW杯出場を決定付けた大きな貢献をし、2ゴールをマークした。
これは単なる数字ではなく、大舞台での勝負強さ、プレッシャー下での創造性を象徴している。
国際Aマッチ36試合6得点という記録も、乾の国際的なレベルでの活躍を物語っている。
戦力分析 神戸の攻撃バリエーション強化のカギ
2024年シーズン、神戸の攻撃的システムには一定の課題があった。
大迫と武藤という強力なフォワードを抱えながらも、複数得点を挙げた試合数が限定的だったのだ。
ここに乾が加わることで、神戸の攻撃はどのように変わるのか。
乾が清水で発揮していた最大の武器は「高い戦術理解度」と「勝負どころを見極める力」である。
また、攻撃的サッカーを信条とする秋葉コーチとの連携により、神戸の攻撃はさらなる創造性とバリエーションを持つようになると予想される。
2025年シーズンは、神戸にとってACL(アジア・チャンピオンズリーグ・エリート)などの過密日程が待っている。
こうした環境下で、ベテランとしての経験とスタミナ管理が得意な乾の存在は計り知れない価値を持つだろう。
懸念点と可能性 37歳への「投資」の意味
当然のことながら、37歳のベテラン選手の獲得には懸念がつきまとう。
来年6月には38歳を迎える乾。
長期的な活躍を期待することは、現実的ではないかもしれない。
だが、乾の場合、その懸念は別の視点から考え直す必要がある。
神戸が求めているのは、長期的なプレーヤーではなく、「即戦力」でありながら「メンタルリーダー」でもある存在だ。
清水時代に乾が示した安定感、そして困難から立ち直る精神力は、若い選手たちに大きな刺激をもたらすはずだ。
また、乾の在籍期間中に、神戸の次世代の攻撃的MFが育成されることも見据えた采配だと考えられる。
つまり、乾の移籍は「勝利」と「育成」の両立を狙う戦略的な補強だと言えるのだ。
結局、戦力になるのか
最終的な結論は、来シーズンのピッチが出す答えだ。
だが、現時点で判断できる要素は揃っている。
乾は確かに37歳だ。
年齢というのは、スポーツにおいて重要なファクターである。
しかし同時に、乾が2025年シーズンJ1で全試合出場した事実、そして清水エスパルスの攻撃を牽引し続けた実績は、決して軽視されてはならない。
秋葉コーチとの関係性、スキッベ監督の攻撃的なサッカーへの適合性、神戸の過密日程に対応できるベテランの価値—これらすべてが揃った時、乾はヴィッセル神戸において「戦力」以上の価値を発揮する可能性がある。
かつて「問題児」と呼ばれた乾は、清水で「愛される選手」へと生まれ変わった。
そして今、神戸のピッチで、新たな「チャレンジ」に挑もうとしている。
2026年シーズンのJ1リーグで、37歳のMFがどのような足跡を残すのか。
その目で見届ける価値は、十分にあるだろう。


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