2026年の全国公開を控えた映画『口に関するアンケート』は、ホラー作家・背筋による累計32万部を突破した同名ノベルを原作としています。
本作について「怖さの質感」と「映像表現の方針」を、原作と映画化情報から検証します。
原作における恐怖表現の特徴
原作『口に関するアンケート』は、スマートフォンより小さい手のひらサイズの装丁に、わずか60ページという短編ながら、SNSを中心に「小さすぎて逆に怖い」「読んだ感想を何一つ言えない」と話題が拡散した作品です。
物語は、心霊スポットとして有名な墓地に肝試しに向かった大学生たちが、翌日に女子大生が行方不明になることからはじまります。
原作の怖さはグロテスクな視覚的表現ではなく、心理的恐怖に徹しています。
物語は5人の大学生のインタビュー形式で展開し、登場人物たちが語る不可解な証言が交差する中で、徐々に不穏な雰囲気が形成されていきます。
最後に付録されたアンケートに読者が回答していくことで、初めて全容が明かされるという独特な構成になっています。
登場人物の一部は自殺を示唆する形で物語から消えていきますが、これは文字色が赤くなるという表現や、録音ファイルの時系列から暗示される形です。
つまり、原作には実際のグロシーンや血液表現がなく、読者の想像力と心理的な不安感を利用した恐怖構造になっているのです。
映画化における表現方針
本作の映画化を手がけるのは、『呪怨』シリーズや『犬鳴村』などのヒット作で知られる清水崇監督です。
公開されたコメントから、映画化における表現の方向性が見えてきます。
清水監督は、原作を「見た目でこそ」という作品から「長編映画として見応えあるもの」へ再構築することについて、「シンプルで短く、原作を読んだ方にも読んでない方にも楽しんで欲しくて」と述べており、単なる拡大映像化ではなく新たな解釈が加えられていることが示唆されています。
プロデューサー・田口生己は、本作について「見えない恐怖や複雑な心の揺らぎを繊細に演じ切ってもらった」と述べています。
この表現から理解できるのは、映画は視覚的な刺激やグロテスク表現ではなく、登場人物の内面的な変化と心理状態の描写に重点を置くということです。
また、複数のメディアで指摘されている通り、背筋ホラーの最大の特徴は「説明しない怖さ」にあります。
監督の清水崇は、「狭い画角で映らないものを想像させる」「小さな音の消え方で不穏さをつくる」「俳優の呼吸や視線の動きで空気を変える」といった、見せすぎない演出技法でこの「語らない恐怖」を表現する予定と考えられます。
グロテスク要素の有無
映画『口に関するアンケート』には、明確なグロテスク描写がない可能性が高いです。
その理由は以下の通りです:
1. 原作の構造的特性
原作は心理的恐怖に特化した作品であり、明示的な視覚的暴力や血液表現がありません。
原作を映像化する際、これらの要素を突然追加することは、原作者・背筋が大ファンであると公言する清水監督のスタンスと相反するでしょう。
2. 監督の映像表現スタイル
清水崇監督の最近の作風は、日本ホラー映画における「静寂系ホラー」の台頭を体現しています。
大声や鮮血に頼るのではなく、日常のどこかに入り込んだ小さな狂いがじわじわと観客を侵食していく構造を好む傾向が見られます。
3. 原作者とのコラボレーション
背筋は、清水監督による映像化について「私には想像もつかないほど、新しくて怖くて面白い映画に仕立てられるのでしょう」と述べており、原作の本質を損なわない形での再構成が想定されています。
映画が怖い理由—グロではなく「心理的恐怖」
映画『口に関するアンケート』の怖さは、以下の要素に由来すると考えられます:
不確実性と曖昧さ
原作同様、映画も「あの夜、何が起きていたのか」という謎を中心に構成されます。
複数の証言が矛盾し、観客は誰が真実を語っているのか、そもそも真実は何なのかを判断できない状態に置かれます。
この不確実性自体が心理的緊張を生み出します。
観客の想像力の働き
説明しない演出により、観客は自分の想像力で物語の空白を埋めることを強いられます。
その結果、自分自身の恐怖心が増幅されるという、参加型の恐怖体験が実現します。
微細な心理変化の表現
板垣李光人演じる主人公・村井翔太の表情や呼吸、視線の微妙な変化から、登場人物たちの内面的な崩壊が伝わってくる構成が予想されます。
これは血液表現よりも深刻な恐怖をもたらします。
まとめ
映画『口に関するアンケート』は、グロテスク描写に依存しない心理的恐怖作品です。
むしろ、不確実性、曖昧さ、そして登場人物たちの心理的な崩壊プロセスを通じて、観客の恐怖心を引き出すタイプの作品と考えられます。
原作で話題になった「怖すぎて人に勧めたくても勧められない」という感覚は、グロテスク描写による不快感ではなく、その後の心理的な余韻と、明かされた真実の不気味さに由来しています。
映画も同様に、視覚的刺激ではなく「説明できない違和感」と「言語化不能の恐怖」を観客に与える作品として設計されているのです。
情報感度の高いホラーファンであれば、この「グロから心理へのシフト」こそが、2026年の日本ホラー映画市場における大きな流れを象徴していることに気付くでしょう。
参考情報
映画『口に関するアンケート』は2026年に全国で公開予定です。
ワーナー・ブラザース配給、清水崇監督、板垣李光人主演による本作は、背筋のデビュー作『近畿地方のある場所について』が同年に興行収入15.5億円のヒットを記録したことに続く、背筋原作の映画化作品となります。
原作の小説『口に関するアンケート』は、ポプラ社から発売されており、Amazon、楽天、各書店で購入できます。
映画をより深く理解するために、映画公開前に原作を読むことも推奨されます。


コメント